2021年9月5日日曜日

理解の仕方

 「孫子の兵法」の話の続きです。

 私は、守屋先生の孫子の兵法を読んで以来、それが「孫子の兵法」だと思っていました。


 最近、ふと別の方の「孫子の兵法」に関する著作を読んで、人によって理解の仕方は違うものだなぁと思いました。


 まぁ、当たり前の話ですが。何が重要と考えるかは、人によって違って当然です。


 というわけで、私も自分が理解した内容をまとめてみました。


 かの曹操も、自ら「孫子の兵法」の注釈書を記したらしいです。読んでみたら、また別の発見があって面白いかもしれません。


兵法に学ぶ 4 --- 終わり方 ---

------------------------------

 一般に、物事の終結というのは難しいものです。名君が後継の育成に失敗するという逸話はよくあります。株なんかも、勢いがあって儲かっているときはいいですが、そこからの引き際は非常に難しいと聞きます。


 「孫子の兵法」においては、国家・社会が存続するなら、一つの戦いの終わりは、次への始まりです。つまり準備の段階に戻るだけです。

 きちんとした情報収集と情勢判断ができれば、適切な終結も見えてくるはずです。


------------------------------

「窮寇には迫ることなかれ」「囲師には必ずかき」

 追い込まれた敵は必死の抵抗をしてきます。「窮鼠猫を噛む」という言葉の通りです。死にものぐるいの反撃を受けるくらいなら、あえて敵の逃げ道を作った方が得策でしょう。敵を誘導しているなら、主導権はこちらにあります。


------------------------------

 近頃、正論で相手を論破するというのが流行している気がします。

 相手を論破するというのは派手な勝利に見えますが、追い込まれた相手が無茶苦茶な反撃をすることも考えられます。相手の逃げ道を用意して誘導するのが、兵法に則った戦略だと思います。

 敢えて敵を作る必要はありません。


------------------------------

 古の名将・名君は、一つの勝利に浮かれることなく、先を見越して、次の戦いの準備を進めていたと思います。

 「勝って兜の緒を締めよ」ということです。


兵法に学ぶ 3 --- 行動について ---

------------------------------

「疾きこと風のごとし」

 戦いに勝つための行動の基本は、素早く、勢いよくです。

 第2次大戦時のドイツの電撃作戦しかり、古今東西の戦争では、素早く、勢いのある戦法が勝利しています。


------------------------------

「兵は拙速を聞くも、いまだ巧の久しきをみざるなり」

 拙速というのは、速くても拙い(まずい)ということです。分かり易くパターンを書き出してみると、

 1. 速くて、まずい

 2. 速くて、うまい

 3. 遅くて、まずい

 4. 遅くて、うまい

の4パターンが考えられます (ラーメン屋ではありませんが)。このうち、4.のパターンは基本的にはあり得ません。遅い=時間がかかる、というのは、それだけで消耗しているからです。2.が最良、1が次善であれば、とにかく速く行動することは、望ましいことです。


 もちろん、速ければ何でもいいわけではありません。「急いてはことを仕損じる」という言葉もあります。どんなに行動が速くても、内容が良くなければ、やっぱり失敗です。

 目指すべきは速くて巧いです。


 言い換えるなら、夏休みの宿題は早々に手を付けましょう、ということです。


------------------------------

「人を致して人に致されず」

 後手後手の対策には、スピードもなく、勢いもありません。主導権を取って、先手で行動することが大事です。

 事前の準備が整っていれば、必ず先手の行動がとれるはずです。


------------------------------

「死地に陥れて然る後に生く」

 "背水の陣"というのがあります。自軍をあえて危機的な状況に追い込み、兵を死にものぐるいで戦わせる、という戦術です。死にものぐるいなのだから、勢いはあるでしょう。


 社員に危機感を煽ろうとする経営者がいたりします。背水の陣のやり方でしょう。がむしゃらに働けば、活路が見いだされるかもしれません。


 ただし、常に危機感を煽ってばかりでは、社員が疲弊するだけです。社員が疲弊していたら、勢いが出ません。


 また、危機感だけ煽っても、取り組むべき課題が見えていなければ、迷走するだけです。やはり勢いが出ません。これは状況分析が不足しています。


------------------------------

 話はそれますが、兵法書の呉子には、"将軍は手続きを簡素化すべき"、といったことが書かれているそうです。

 行動を起こすときに、煩雑な手続きがあると、勢いがそがれてしまいます。「孫子の兵法」と同じ思考だと思います。


 ・・・お役所の手続きも簡素化して欲しいものです。


------------------------------

「人をして慮ることを得ざらしむ」

 一度行動を起こしたら、その後は深く考えず、勢いに任せて突き進むのがうまいやり方です。


 「孫子の兵法」には、"作戦は将軍が考え、兵隊は何も考えないでいい"、とあります。少し悩ましいです。


 私が思うに、勢いのある行動は大事なんですが、兵隊は何も考えないでいいわけではないです。将軍が間違っていたら、何も考えないうちに全滅してしまいます。


 複雑化した現代社会において、必ずしもリーダーの選択が正しいとは限りません。リーダーの間違いに気づくためには、部下もしっかり考えた方がいいでしょう。


兵法に学ぶ 2 --- 準備について ---

------------------------------

「彼を知り己れを知れば、百戦してあやうからず」

 「孫子の兵法」の戦略の基本は綿密な準備です。事前の情報収集が完璧なら負けることはありません。勝てない可能性はありますが、負けなければ、いつかは勝てます。


 完璧な情報を集めることは難しいですが、労力を惜しんではいけません。労力を惜しんで、負けてしまったら、すべてが終わりです。


------------------------------

「勝ち易きに勝つ」

 綿密な調査を行い、勝てる見込みがあるところで戦えば、勝ちは手堅いでしょう。


 ハイリスク・ハイリターンという言葉もありますが、国がリスクを冒して滅んでしまっては最悪です。最低でも"負けない見込み"は確保すべきです。


------------------------------

「兵を形するの極は無形に至る」

 「孫子の兵法」には勝つための答えが書いてあるわけではありません。"最強の陣形"があるわけではないのです。

 情報を集めて、考えて、状況に応じて臨機応変に変化することが大事です。


------------------------------

 過去の事例を学んで、アイデアをいくつも持っているというのは大切なことです。実績のある方法は参考になります。

 ですが、それに従ってばかりではいけません。情勢は常に変化します。過去の事例と同じ状況にはなりません。

 考えることを怠ると、馬謖と同じ道を辿ります。


 情報を集めて、考えて、状況に応じて臨機応変に変化する、そうすれば負けることはないはずです。


------------------------------

 ちなみに、戦う相手も兵法に習熟していたらどうなるでしょう?

 自分と相手の力がほぼ対等で、どちらも十分に情勢を見極められるなら、おそらくは、お互い負けないところに収まるでしょう。


兵法に学ぶ 1 --- 目標について ---

------------------------------

「兵は国の大事」

 兵法とは戦争に勝つための方法ですが、「孫子の兵法」が目的とするところは、単に戦争に勝つことではありません。国家・社会を存続 (繁栄) させることです。


 戦争には大きな労力が必要です。負ければ国家・社会の存続を危うくします。だからこそ負けるわけにはいかないんです。負けなければ、いつか勝ちが見えることもあるでしょう。


------------------------------

「百戦百勝は善の善たるものにあらず」

 戦争は大きな労力を消費するのだから、戦わずに勝てるなら、それが最善です。逆に、戦って消耗して負けるのが最悪です。戦って負けるくらいなら、戦わずに撤退を選ぶべきです。


 勝つことを目的と勘違いして、戦いを繰り返し、国家・社会を疲弊させてしまっては、本末転倒です。

 目的を正しく見据えないといけません。


------------------------------

 正しい目標を見据えることは、戦争に限らず、とても重要なことです。


 目標が間違っていたら、本来望んでいる結果が得られないかもしれません。それでは本末転倒です。正しい目標を設定することは、とても重要です。


 (例えば、経済政策の目標として、株価の上昇を掲げるのは、正しい目標でしょうか?数値目標を設定するのは分かり易いですが、よく考える必要があります。)


------------------------------

 その昔、房玄齢杜如晦という名宰相がいたそうです。

 どちらも名宰相として知られているのに、目立った成果を残していないとのことです。本当の名宰相であれば、仮に問題が発生したとしても、それが大きくなる前に対処するので、目立った成果にはならないでしょう。目立った成果にならなかったとしても、目的は達成されています。


------------------------------

 近頃は、成果主義を採用する企業も多いようです。ですが、目立った成果を上げることばかりが評価項目ではないはずです。


 評価される成果をアピールするために、何かしらのイベントを繰り返す。どこぞの政治家がやりそうなことですが、それは兵法の教えとは相容れない感じです。


 特に大きな成果はないが大きな問題もなく、時世が変化する中でさえも、安定に繁栄を続けたなら、それは偉大な仕事です。


兵法に学ぶ --- はじめに ---

 守屋先生の孫子の兵法を読みました。


 昔から何度か読んでいる本です。孫子の兵法に書かれている内容は非常に合理的で、学ぶべきところがあると思います。


 というわけで、少し私なりの解釈を書いてみようと思います。


Amazon 孫子の兵法